2014年9月12日金曜日

[記録]クリス事変について思う③:The boy who cried wolf

以前noteにあげたクリス脱退の一連の流れについての個人的な記録をここに再録したい。全5回のうちの第3回。

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2014/05/22 05:58 

クリスが事務所を相手取り訴訟を起こした15日から週末が明け、1日、また1日と時間が経っていく。
朝目覚めてしばらくして、朦朧とした視界の中で気づき始める。私は、クリスがいなくなったことに、慣れ始めている。「現実」というものは、こちらが受け入れ承認するものではなく、向こうから少しずつ近づいてくるものなのかもしれないと、薄くなった布団の中で考える。
19日。
クリス脱退から週が明けたこの月曜日は、「11人を対象とした悪質なデマが一斉に広まる」とされた日だった。週末から注意喚起のツイートがTLを埋め、少なくないファンが動揺し「浄化運動」に精を出していた。
某メンバーの中国ファンが書いたとされる「状況整理」の文章が、未だに何度も目に入る。既に誰もが目を通しただろうに、RTの回数だけが空虚に伸びていく。
加えて、SMの株主と自称する者が韓国の巨大掲示板サイトに載せた文章(※1)が流通し始める。そこには、クリスとSMエンターテイメントという対立構造の背後により大きな、複数の中韓企業同士の対立関係が在ると示唆されていた。
時をほぼ同じくして、とあるファンが作成したKpopコミュニティーにアップした文章(※2)の韓国語翻訳も目立つようになった。こちらも、クリス事変の背後に存在するより大きな企業抗争の存在を示唆したものではあるが、よりクリスの個人的な脱退理由や健康状況に言及した内容であった。文章の最後は、クリスは利己的なリーダーであり、私は11人の側に付く、といった立場表明で結ばれていた。
一連の騒動の背後に大きな権力争いがある、という指摘には、正直「そうかもしれないし、そうだとしてもどうしろというのか」と感じる。私が差し当たって知りたいのは、「クリス」もしくは「ウーイーファン」が主語になる問題であって、大企業を主体とした物語に彼を結び付け語られても、心の持って行き場がない。ましてや、その陰謀の一端に彼を位置づけ断罪するなんて。
<本当のことを知って下さい> <真実を見て下さい>
自分が好んで見ていたファンアートの作者が、好感を持っていたEXOファンが、際限なく尖ったことばを投げかけてくる。それが、彼女らの誰かが一生懸命翻訳したであろう日本語であることが、辛い。彼女たちも切実であろうことが分かってしまうのが、遣る瀬ない。
流れてくる写真に、FAに、ビクビクしながら影の数を確認している自分がいる。
クリス事変以降一度もTLに姿を表さない、FA作者のEXOファンがいた。私は、その子の描くセフンが大好きだった。彼女のweiboのページに接続し、祈るような気持ちで更新履歴を確認する。中国語が出来る友人の力を借り、彼女の心境を確認しては希望を持ち、ホッとした気持ちになる。疲れる。

結果として、この日、喧伝されていた「ひどいデマが一斉に流通する」に該当するような現象は起こらなかった。「浄化運動」が功を奏し、悪行を未然に防いだ、と人によっては言うのかもしれない。
数日の間、メンバーを守れと声を荒らげ、RTを流しまくっていたファンたちは、一切、それについて語らない。


頭の後ろ辺りで、オオカミ少年の寓話を思い出している。


むかしむかし、あるところに、共同体の平安を脅かす存在、オオカミがやってきたと声高に叫び、村の住人を怯えさせては笑う少年がいました。オオカミなんて、本当は居ませんでした。少年は、嘘をついて人を騙すのです。でたらめを叫び続ける内に、彼の言葉は軽くなってしまいます。もう、誰も彼のことを信じる人はいません。やっと、本物のオオカミが目の前に現れた時には、村の中で彼のいうことを信じる者は、誰一人としていなくなっていました。

ファンは、私たちは、村人のようだ。四方から、鼓膜を震わす声が次から次へと聞こえてくる。その声の大きさ、切実さに何度と無く戸惑い、手当たり次第にその言葉の真偽を確かめようとする。不信だけが、際限なく澱のように淀んでは積もっていく。
私たちが怯える「オオカミ」は一体どこにいるのだろう。そもそも、「オオカミ」って何だっけ。あの少年の声は、こんなに鋭かったっけ。
その内、村人は疲れてしまう。甲高い声は、声色を変えながら、オオカミを他の存在にすり替えながら、鳴り続けている。

ふと、その寓話の英題を思い出す。
<Boy Who Cried Wolf>

優しかった少年、笑いながら互いの名を呼びあって、自らの空間を徐々に強固に狭めていった少年ら。私たちがうっとりと聞いていた彼らの歌は、ここのところ、尖った叫び声に変わってきている。
少年らの集ったあのアジトも、そこに掛けられた12の肖像も、春が来る前に取り壊されて無くなってしまった。
戻るべき場所を失った少年らの声は不吉な幻聴になり、私たちの耳にこだましている。


数日後に迫ったEXO初の単独コンサートが「11人で」行われると、公式HPでの発表があった。
言及されない残りの1人を、3つの言葉が混ざった壁の落書きを、今はもう無い12人の隠れ家のことを、ぼんやりと考えたまま今日も夜が明ける。

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